『久女はこの本で復権した。』 こんな名句を残した久女ですが、この人ほど、評判に恵まれなかった人は、いないのではないでしょうか。 田辺さんは、そんなイメージに包まれた久女の素顔を、
俳人の杉田久女は、ご存じでしょうか。
「こだまして山ほととぎす欲しいまま」という句には、
圧倒されたものです。
この本の題名になった「花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ」の
華やかさにも、うっとりします。
しかし、久女は師の虚子に破門された悲劇の女性でもありました。
虚子は俳壇の巨人ともいえる存在でしたから、
この破門は、俳句の上での死さえも意味するものであったと思います。
彼女は、精神病院で死を迎えました。
私も、松本清張氏の
「菊枕」で、久女を知ったのですが、わがままな変人、というイメージしかもてませんでした。
(清張氏のものは、また違ったおもしろさもあるのですが)
温かい目で検証してくれます。
まるで、優しい手で、一枚一枚、薄紙をはぐように。
この本を読み終わったとき、私の中で、久女のイメージはすっかり変わってしまいました。
家庭と、芸術に引き裂かれながら生きた、一生懸命すぎる女性。
現代の女性にも通じる悲劇がそこにはありました。
「わが愛の」という副題が心にしみます。